惑星からの逃走線

読書記録や研究上で思いついたこと、日々の雑感など。

記憶の『読み方について』

『既在性』という,ハイデッガーの用語を知った。「記憶とは過去の事象を表すものであり,既に存在しないが記憶の想起は現在に属する事象である」ことを指し示すものであるらしい。

 

 一般に記憶は,過去の事象の痕跡と,それの読み方から構成される,と思う。基本的には,既在性の過去と現在の二重性は,この構成要素が二つに分割できることに対応しているとも。痕跡と読み方はそれぞれが現在に所属するが,両者が合わさることで過去という不在への扉が開く。

 

 さて,記憶の読み方についてである。記憶が仮に私が挙げたようなタプルを持つなら,当然のように読み方は時間的にコンスタントでなくてはならない。これがころころ変動すれば,当然記憶の恒常性は担保されないからだ。かつ,これは共時的にグローバルでなくてもならない。記憶の読み方が共時的な恒常性を持たなければ,過去を共有できない(といってもこちらの要請はあまり満たされていない――歴史認識問題に限らず,単なる民事訴訟でも)

 一方で,痕跡の方は時間的恒常性を満たせば良い。この違いは,謂わばチューリングマシンのテープと動作規則のそれに擬することができよう。