惑星からの逃走線

読書記録や研究上で思いついたこと、日々の雑感など。

今週読んだ論文20151220

今週も大して読めていないし分野もてんでんばらばらなので,もう少し量を増やした上で戦略的にどのディシプリンの論文を読むかを決めないといけないだろうと思った。今回は日本語の論文ばかりである。

  1. 向山恭一. "マルチチュードとわれらの時代の革命." (2006).
    アントニオ・ネグリマイケル・ハートの『マルチチュード』という概念を知りたくて読んだ。とてもバーバルな感じなので,中途半端に理系な私には理解が追いつかない部分も多し。何となくだが,ネグリとハートの思想はある種の「仕様」みたいなもんで,実装は文字通り今後の課題なんではないか,とは思った。ちょうど昨日『マルチチュード』の日本語訳が届いたので,読んでみようと思う。ちなみに英語が得意な人なら英語版はWEBに無料で公開されているようだ。

  2. 青山征彦. "エージェンシー概念の再検討: 人工物によるエージェンシーのデザインをめぐって." 認知科学 19.2 (2012): 164-174.
    先日のBlogにも少し書いた Actor Network Theory でググったら出てきた。ANT自体をちゃんと理解できているわけではないが,少なくとも面白い考え方だとは思った。個人的に気になったのは,Kaptelinin & Nardi (2006)からの引用で,エージェントには多様性と異質性があるということ。私なりの解釈では,たぶんこのヘテロジニアスネスは各エージェントの他のエージェントに対する『立ち位置』に多くを負っているのだろうと思った。そう考えると,人間-人間以外の生物-非生物を内含するヘテロジニアスなネットワークはソーシャルグラフで表現できそうかもしれない。

  3. 師茂樹. "「デジタルアーカイブ」 とはどのような行為なのか." 情報処理学会研究報告. 人文科学とコンピュータ研究会報告 2005.51 (2005): 31-37.
    私が今週読んだわずか三本ばかりであるが,その中では最も面白かったし,勉強にもなった論文。最近はデジタルアーカイブにとても興味を持っているが,その根源的な部分が孕む問題を指摘している。
    「デジタルアーカイブが現在ある(地域文化を含めた)文化のあり方のみを強力に固定化,権威化し,これから起こりうる可能性を抑圧することだけに加担するのだとすれば,それは果たして『次世代への継承』と言えるのだろうか」
    この視点は私の中で欠落していたので,蒙を啓かれた思いである。とくに,イノベーションという観点からこれを考えなおすと,面白いのではないか。つまり,過去の蓄積なくしてイノベーションは起こりえないが,同時に過去の蓄積の『重さ』みたいなものが大きすぎても,やはり起こりえない,そういうアンビバレンツの中にイノベーションはあるのかもしれない。

以上,今週読んだ論文の報告である。来週までにはもっと読まないといけない。