惑星からの逃走線

読書記録や研究上で思いついたこと、日々の雑感など。

「専制2.0」?

 さて,周知のとおり『ジャスミン革命』でFacebookなどのソーシャルメディア,あるいはソーシャルネットワークサービス(以下,両者をまとめて便宜的に"SNS"と呼ぶ)が重要な役割を果たしたと言われている。詳述するまでもないが,一定段階以降の経過を措けば,当初のきっかけとして,SNSは確実に大きな役割を果たした。タハリールに集った若者のある程度の部分は,明らかにFBなどでのメッセージを受けてのことである。

 さて,本来SNS発祥の地が合衆国西海岸という非常にリベラル色の強い,民主主義の『総本山』アメリカの中でもとくに反権力的志向を持つ地域であることから,SNSは民主主義国家で主に流行しているように思われている。

 しかしながら,実際には中国の百度(バイドゥ)の微博(マイクロブログサービスである)などや,ロシアにも『ご当地SNS』が存在し,それらの利用者数は相当にのぼるものと思われる。これらは,多く独裁的な政権の監視下にあるか,もしくはより積極的にそれに協力している。他方,アメリカ発のFBが,アフリカでのウェブ環境整備に邁進している(http://www.gizmodo.jp/2014/03/facebook_80.html)。

 

 

 さて,何だか一気に情報だけ出してしまったが,もう少し要点を箇条書きすれば,私の主張はこのようになる;

  • 中国の百度は,今や共産党言論弾圧に手を貸している始末である。これは,SNSと国家権力の癒合は,ある意味でのディストピア化に貢献する,少なくとも,言論の自由を弱体化させる可能性を強く示唆している。
  • これは,必ずしも中国やロシアといった,権威主義体制国家に限った話ではない可能性も示唆される。なぜそう主張できるか? まず,FBやTwitterといった大手SNSの収益は,最貧国のGDP/GNPを軽く超えている。その上,上記の記事のように,それらの国民の「ネット接続を独占的に」行おうとしている。仮に,FBが自社に不利な議論を,それらの国で封じることも,(原理的には)できる。
  • 更に言えば,それらの行為は先進国でも可能だ。「Google八分」。ただし,SNSが独占的にウェブ接続を提供している後進国でやった方が,効果は無論高い。
  • 謂わば,中国が国連における「票田」としてアフリカに援助を行うように,FBなどが(もちろんFBだけではない)後進諸国に同様なことを行える。あるいは,国家の方がSNSに擦り寄る可能性もある。

 もちろん,これは私の妄想で,そんな心配はない,と一蹴されればそれまでである。

 しかし,SNSがある種の『権力』,それも隠微かつ浸透的なものとして振る舞う可能性は皆無だろうか。「専制2.0」が我々の頭上を覆う,それは杞憂か。歴史的に,権力者/支配者/統治者は,自己が被治者を制御できるものは,どんなものであれ使ってきたことを考えると,「可能性は非常に低い」とは言えない気がするのだ。

 もしも,これが杞憂ではないなら,いかなる対策を講じうるか?

 ひとつには,本来のインターネットが持っていた,「誰でも参加できる」という特性を復活させることが考えられる

「PCの死」と「平等なウェブ世界の終焉」 « WIRED.jp

 もしくは,「オープンソースSNS」(もうありそうだけど)をつくるか。

 ただ,どちらにせよ,既に何億人ものユーザを抱えるFBなどと伍するのは厳しそうだ。次善として,FB・Twitterなど,「一定以上(一億人とか)の人口を抱えるSNS」をある程度,公的かつ国際的な機関に監視させる,といったものはあるかもしれない。逆にいえば,これはある種の『お墨付き』ともとれなくはないわけで,SNS側にもメリット皆無ではないだろう(デメリットと比較する必要もあるが)

 さらに,SNS内部で「三権分立」「自治」「民主主義」のようなメカニズムを埋め込むのも,それほど悪くないかもしれない。

 

 とにかく,SNSという新手のコミュニティのガバナンスには,まだ改良の余地がありそうである。