囚人のジレンマとしての軌道エレベータ建設――我々は地球に囚われた囚人である。
"the Pie in the Sky"とは、英語の諺で「絵に描いた餅」の意味である。
そして、これは私の中では東京大学総合研究博物館で以前行われた「宇宙資源展」と分かちがたく結びついた言葉でもある。
宇宙資源 東京大学総合研究博物館 The University Museum, The University of Tokyo
この諺は宇宙資源展でサブタイトル的な使われ方をしていた。即ち、「空に浮かぶご馳走(宇宙資源)」という意味と「それも取ってくる手段なくしては絵に描いた餅である」という意味の両義的な形で。
絵に描いた餅とはよく言ったもので、既に人類は軌道エレベータや極超音速スカイフックなどを後一歩で実用化可能な地点まで到達しているにも関わらず、おそらく今後数世紀は社会的政治的な理由からそれに至らないであろう。
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社会的政治的理由とは、単にこれがお馴染みの「囚人のジレンマ」ゲームと同じ形式になっているからだ。
つまり、建設それ自体には(決して大国ならば捻出できない程度ではないが)かなりの予算が必要とされるが、同時に一度軌道エレベータが建設されればほぼ全人類が恩恵を被る。
ここで、軌道エレベータ建設の主体になりうる国家(ないしは企業)にとって最も望ましいのは他の国家や企業が軌道エレベータを建設し、それに「ただ乗り」(字義通りの意味で)することだが、一方で誰も作らなければ人類全体がジリ貧になる訳である。教科書に載せられそうなくらい典型的な囚人のジレンマゲームといえるだろう。
これを打開するにはおそらく世界全体とまでは言えないまでも、軌道エレベータの建設で恩恵を受けうるほぼ全員が正統性を持つと認識するような組織(現実的には国連だけ)の強いリーダーシップを期待するより他ないが、残念ながら当面は不可能であろう。
天空に浮かぶパイに手がとどくのは、いつの日か。
追記:「軌道エレベータ 囚人のジレンマ」で適当にググっても、類似の記事はなかった。案外、こういった視点を持つ人は少ないのかもしれない。或いは英語でググったら違うかな?